先日、親しい知人からこんなご相談を受けました。
「うちの叔母がもう90歳を超えていて、いまは病床生活。余命も長くないと医師から言われている。
叔母は独身で子供もいないけれど、私は養子縁組をしているから相続人になる。
ただ、相続税って10ヶ月以内に払わないといけないって聞いたし、もしも家を売らないと納税できなかったらどうしよう…」
これは、最近とても増えてきているご相談のひとつです。
今回はこのケースを通して「相続時に家を売らなければいけないのか?」というテーマについて
考えてみたいと思います。
自宅を売らなくてもいい? 相続評価額をチェック
まず、相談者の一番の不安は「納税のために家を売る必要があるかどうか」でした。
そこで私たちが行ったのは以下のような調査です。
◆ ご自宅の所在地をヒアリング
◆ 登記簿謄本の取得と内容確認
◆ 土地と建物の広さ、路線価から評価額を算出
場所は奈良県某町。駅から徒歩5分と立地も良く、敷地は約70坪。
広さ的にはしっかりとした住宅でしたが、土地・建物の評価額を合算しても
相続税の基礎控除(3,000万円+相続人1人=3,600万円)を下回る結果となりました。
つまり「家を売らなくても、相続税はかからない可能性が高いですよ」とお伝えすることができたのです。
現金や金融資産での納税も視野に
さらに、この叔母様は自営業をされていた方で、そこそこ資産をお持ちのようでした。
預貯金や有価証券(株や投資信託など)の正確な金額は分かっていないものの、
ある程度の資産があることは間違いないだろうと判断できました。
そこで、仮に相続税がかかることになったとしても
「家を売らずに、まずは現金や金融資産を活用して納税すれば問題ありません」
と助言させていただきました。
相談者の方はその場でほっとした様子で「それなら安心しました」と笑顔を見せてくださいました。
最近は “まず不動産屋に相談” というケースも増えています
本来、相続税がかかるかどうかの判断は、税理士さんにご相談いただくのが一般的です。
ただ、最近では「まず不動産業者に相談してみよう」という方も増えてきています。
というのも、相続税の計算において“どれだけ不動産の価値があるか”という点が非常に大きな要素だからです。
不動産の相続評価は、税理士さんであれば評価額をある程度スムーズに算出できます。
ですが、実際に
「その家を売ったらいくらになるのか?」
「簡単に売れる物件なのか?それとも時間がかかるのか?」
という点までは税理士さんだけでは判断しにくい部分です。
私たち不動産業者は、売却の難易度や市場価値、周辺状況なども含めて総合的に判断します。
場合によっては現地まで足を運び、土地の形状や道路との関係、近隣との境界問題の有無などを見極める必要もあります。
今回のケースでは、Googleマップや公図などをもとに周囲の状況や接道、隣地との関係などを
確認したところ、比較的シンプルな土地だったため、現地確認なしでも判断が可能でした。
しかしながら、すべての物件がそうとは限りません。
一見すると平凡な住宅地でも、入り口が狭かったり、旗竿地だったり
あるいは古い境界トラブルがあったりするケースもあります。
だからこそ「相続税がかかるかどうか?」の前に「この不動産はどう扱えるのか?」という視点から
まずは私たちにご相談いただくのも、決して間違いではないと思います。
売却には “譲渡税” という落とし穴も?
ところで、相続後に不動産を売却して現金化する場合には、もうひとつ注意すべき点があります。
それは「譲渡所得税(いわゆる譲渡税)」の存在です。
家を売って利益が出た場合、その利益に対して税金がかかるのです。
ただし、相続による売却には「取得費加算の特例」という軽減措置があります。
これは、相続税の一部を“取得費”に加算できる制度で、譲渡益を圧縮し、結果として課税を軽くできる場合があります。
この特例も、条件や期限がありますので、売却を検討する際は事前に確認することが大切です。
おわりに:まずは冷静に状況を把握することから
相続というと、何から手を付ければいいのか分からず、不安になってしまう方も多いかと思います。
でも、今回のように評価額を調べたり、他の資産の有無を確認するだけでも、必要な手続きや判断がぐっと明確になります。
「家を売らないとダメかもしれない…」と焦る前に、ぜひ一度、信頼できる専門家に相談してみてくださいね。