空家の放置のリスク
最近、空家の放置が社会問題になっております。
全国で820万戸、全戸数に占める割合が13.5%に昇ぼるとのことです。
なぜ空家が解体せずに放置されているかという理由の一つに、土地の固定資産税が
空家(正確に言えば住居)を解体して更地にすることにより6倍に上昇することがあげられます。
しかし、空家を放置することは所有者に多大のリスクがあります。
1.老朽化による庇や建物の一部の落下により通行人にケガを負わせる。
2.火災や不審火の原因となる。
3.浮浪者や不審者が侵入して犯罪の温床になる。
空家放置の最大のリスクの一つに侵入者による自殺や
遺体の放置場所になる可能性があげられます。
空家で自殺
以前、私が売却を依頼された老朽化して放置されていた物件のケースですが、
買い手が決まった段階で過去この家屋で侵入者がいて自殺された事実が判明しました。
幸いにも買主さんはこの物件のご近所の方で、この事実を知っておられたので
事無きを得たのですが、通常このような場合、値段は大幅に下がります。
なぜなら、売却の際は、売主は買主に対してその事実を告知する義務があるからです。
(建物を解体して売却しても告知義務は逃れられません)
売主がこれを隠して取引すると、不法行為となり、買主に対して損害賠償の義務を負うことになるのです。
空家の有効活用はできないの?
なぜ、全国各地にこれだけの空き家があるのにその有効活用が行われないのでしょうか?
私は、これには他にも大きな理由がいくつかあると考えます。
1.空家を賃貸にすると、家主さんには多額の初期費用がかかります。
建物の躯体部分や造作の修理はもちろんのことトイレ・キッチン・風呂を始めとする水回りや
電気・ガス・空調などの諸設備は家主側の費用で行うことになります。
賃借人が「自分たちの好きな間取りに改造させてよ。自分たちでその費用を持つから。その分賃料を安くしてよ。」と
合意して特約条項に記載すればいけそうに思うのですが、これは事業者である家主側に一方的に有利に働く条項と見なされ
消費者契約法に抵触し無効とされる可能性があるのです。
2.家賃の不払い、近隣住民に迷惑をかける不良入居者が入居した場合でも、簡単には契約解除をして退去をかけられません。
家賃の不払いはもちろん契約解除事由には該当します。
しかし、居座られた場合、裁判上の煩わしい手続き(訴訟、強制執行)を経て1年近い年月とかなりの費用がかかります。
3.一度貸すと賃借人の権利が今の借地借家法の下では過剰に保護されます。
賃貸人が自分で使用したい場合や、建物の老朽化で立て替えたいという場合、簡単に退去はさせられないのです。
ただ、3.については、平成12年に定期借家制度が施行されるようになり、契約前であれば
家主側から賃貸借期間を予め設定しておき、その期間が満了すれば終了することができるようになりました。
ネックとなる現在の借地借家法や民法
政府は空家対策に現在真剣に取り組んでいるようですが、このネックになっているのは現在の借地借家法や民法です。
これらの法律は、戦後住宅に困窮していた時代に家主に退去させられたら、たちまち路頭に迷う人を想定して
入居者=社会的弱者ということで借家人は過度に保護をされておりました。
しかし、全国各地にこれだけの空き家が深刻な社会問題となっている現実を考えると、
その有効利用を優先して考えていくべきで現行を維持していくのは大きな問題があるのではないでしょうか?
私は他国の借地借家関係の法律は知りませんが、家賃を不払いしても重大な契約違反をしても
「入居者がかわいそうだから退去させられない。」は時代錯誤も甚だしいのではないでしょうか?
もちろん、社会的弱者の保護を否定するつもりはありません。それは、別の法整備を行うべきです。
現在の法律は、一生懸命金融機関に借り入れ返済を行っている家主に「慈善事業をやれ」と強要している側面も否定しません。
現にこの現行法の隙を狙って、わざと家賃を不払いするという強者もいるのが現状です。
日本もTPP参加の合意に基づき、賃貸業・不動産業も諸外国(主にアメリカ)の慣習に
右へならえさせられることが将来考えられます。
その際に、旧態依然の日本の借地借家法や民法がどのような法改正されるのか
また、消費者契約法は存続が可能なのかとても興味のあるところです。