「代襲相続」から始まった理髪店 店主の苦悩
~家族間の相続トラブルが招いた突然の閉店~
先日、不動産コンサルティングを行っている友人から、非常に考えさせられる話を聞きました。
昨年のことです。
その友人が約30年近く通っていた理髪店の店主から
「年内で店を閉めることになりました。今まで本当にお世話になりました」と突然告げられたそうです。
その理髪店は地域で長年親しまれ、店主もまだ50代半ば。
固定客も多く健康上の理由でもなさそうなので「なぜ?」と思い、理由を尋ねたところ、
「この店を売却しないといけなくなったんです」と、店主は少し言いにくそうに話してくれたそうです。
事情を詳しく聞いてみると、数ヶ月前に店主の父親が亡くなり、そこで相続問題が起こったとのこと。
実は数年前に店主の弟もすでに他界しており、その弟の長男・長女(つまり店主にとっては甥と姪)との間で
父親の遺産を巡って深刻な対立が生じたのです。
この理髪店は、父親名義の土地・建物であり、店主はその1階で理髪店を経営し、2~3階で父と二人暮らしをしていました。
母はすでに10年前に他界し、家業である理髪店を継ぎ、父の介護も長年担ってきたそうです。
しかし、いざ相続となると、弟の子どもたちが「法定相続分を現金で支払え」と強硬に主張し
話し合いには一切応じなかったとのことでした。
遺産といっても、不動産のほかには現金がほとんどなかったため、甥と姪の取り分を用意するには
この理髪店兼自宅を売却せざるを得ないという結論に至りました。
店主は「できれば店を残したい」「お客様とのつながりを大切にしたい」と最後まで粘ったそうですが
甥と姪からは弁護士を通じて内容証明郵便が届き、最終的には廃業を決断せざるを得なかったそうです。
「親の面倒を見てきたことも、祖父の代から継いできた店であることも一切考慮されなかった。
感謝の言葉すらなかったのが一番悲しかった。」と店主は肩を落としていたとのこと。
新たな店舗探しや改装に多大の費用がかかるなど、経済的にも精神的にも別の場所で開業するのは現実的ではなく
長年通ってくださったお客様と別れるのが何よりも辛いと話していたそうです。
もっと早く相談してくれていれば・・・
ここで、友人はしみじみと語ってくれたことがありました。
この理髪店の店主は、とても話好きで人の良い方だったそうです。
特に野球やゴルフの話になると話題が尽きず、店内はいつも明るい雰囲気に包まれていたといいます。
そんな信頼関係が築けていたからこそ、
「もし、もっと早く店主の抱える悩みや家族事情を知っていれば、何か力になれたかもしれない」と
友人は振り返り語っていました。
たとえば店主の父が亡くなる前に【遺言書の作成】を進言できていたら、
あるいは【生命保険】に加入してもらっていれば、相続時に現金を用意でき、店を売らずに済んだかもしれません。
現実にはその機会を逃してしまったわけですが
「もっと早く相談してくれていれば」と、友人は何度も悔やんでいたのが印象的でした。
このお話、相続の現場では決して珍しくありません。
特に「代襲相続」のように、故人の子ではなく孫世代に相続権が移るケースでは、関係性が希薄な分だけ
感情的な溝が深まりやすいのかもしれません。
読者の皆さんは、もし身近な方が似たような立場にあったら、どんなアドバイスができるでしょうか?
今回の理髪店店主さんの話を通じて、改めて感じたのは「相続は事前の準備がすべて」ということです。
特に代襲相続が絡むと、思わぬトラブルを引き起こすことがあるのです。
代襲相続とは?
まず、代襲相続とは何か?簡単に整理しておきます。
本来、相続人になるはずだった人(例えば子ども)が先に亡くなっていた場合、
その子どもの子ども(つまり孫)が代わりに相続することを言います。
今回のケースでは、店主の弟さんが先に亡くなっていたため、弟さんの子どもたち(甥・姪)が
祖父の遺産を相続する立場になりました。
一見すると当然の権利のようにも思えますが、現実には「亡くなった子の孫たち」が相続人になることで
血縁の距離感もあり、感情的なもつれが起こりやすくなるのが実態です。
遺言書があれば防げたかもしれない
もし、店主の父親が遺言書をきちんと作成していたなら、この悲しい結末は防げた可能性が高いです。
遺言書があれば、例えばこんな指定が可能です。
◆ 長男(店主)にこの不動産を相続させる
◆ 代わりに甥・姪には、少額の現金を渡す
◆ 店の存続を最優先に考える
遺言書によって、相続人の意思をある程度コントロールできるため、不要な争いを避けられることが多いのです。
特に「事業を引き継いでいる子がいる場合」や「自宅と仕事場が一体になっている場合」には
なおさら事前の対策が不可欠です。
生命保険を活用する選択肢
さらに、生命保険も有効な手段です。
たとえば、父親が生命保険に加入していれば、死亡保険金を使って甥・姪に現金を渡すことができたかもしれません。
これなら不動産を無理に売却する必要もなく、店主は店を続けることができたでしょう。
生命保険の活用は、特に「相続財産に現金が少ない場合」に非常に役立ちます。
掛け捨て型の手軽な保険もありますし、高齢者でも加入できる商品も増えています。
準備をしておくことで、未来の選択肢を広げることができるのです。
相続問題は「まだ先」の話ではない
「うちは仲がいいから大丈夫」「まだ元気だから心配ない」
そう思って先延ばしにしてしまうのが相続対策の難しいところです。
しかし、いざというときに備えて
・遺言書の作成 ・生命保険の活用 は、どんな家庭でも早めに取り組んでおきたいポイントです。
小さな準備が大切な人たちの未来を守ります。